Language Reality>Sound Reality

Sound Reality in Movie Scenes

音声の臨場感

--- 映画で観る場面の音声 ---

音声には 必ず場面が付いている。

場面の違いが 音声に載ってやって来る。

たとえ知らない言語でも 音声を聞くだけで 感情や目的 年齢や人柄まで 思い浮かべることができる。

多彩な側面を見せる音声から 言語情報を的確に掴み取るには できるだけ多くの場面を体験すると言う訓練が欠かせない。

書かれた英語は単語ごとに分かち書きされているが 話された英語は 数秒間の音の連続として流れ込んでくる。単語と単語がくっつき 打ち消しあい 姿を変えながら 波として飛んでくるのだ。映画は こうした音の波の宝庫だ。


  1. 同じ語彙でも 地域や時代 職業や階層によって 音声が違ってくる。どの発音が正しくて どの発音が間違っていると言ってもしかたがない。 話し手は 相手に応じて わかりやすく発音することが大切。聞き手は 相手の個性に 慣れてあげることが肝要。
    video 1日本にいて聞き慣れるのはこの手の発音で 学校英語では標準的。
    video 2オーストラリアやニュージーランドからきた人は こちらの発音が多い。名犬ラッシーは イギリス農村部を舞台にした映画と言うこともあり ヨークシャーやスコットランドなどの発音の特徴が 入り込んでいる。
    検索語のヒント>~day
    video 3犬の世話を担当している召使 HYNES は訛りが強い。
    検索語のヒント>~ay=HYNES
    ある役者の会話だけを検索したいときには 検索語の後ろに「=配役名」をつける。
  2. 映画『雨に唄えば』は 無声映画からトーキーへ移り変わる時期を背景にしたミュージカル。興味深いのは 声にも気を使わなくてはならなくなった俳優による音声訓練の場面。売れっ子女優リナとコーチの掛け合いに イギリス風とアメリカ風の特徴がよく出ている。今のアメリカ英語は リナのしゃべり方に近いようだ。
    video 1同じ言葉をしゃべっているとは思えないほど違って聞こえる。それでも リズムや抑揚が同じところは やはり 同じ言語。
    video 2音声トレーニングの甲斐あってか リナの音声は かなり改善されたように 聞こえる。
    検索語のヒント>~and hi~
    Lina の I can't stand him. のセリフの直後に 観客がどっと笑ったことに 気づいただろうか。原因は Lina の発声。このときの Lina の I can't stand him. の声の調子が 前半 I can't はイギリス風であったものが 後半 stand him は stan' 'im とアメリカ風になってしまったからだ。
    あえて日本語で表現すると 貴婦人の言い回しで「あの方には 我慢が できませぬ」と言うところが「あの方には 我慢できりゃせんでぇー」となったような感じだ。

    日本では江戸から明治にかけて言文一致が行われた。しゃべり言葉でそのまま文章を書こうと言う動きである。それに似たのが I can't stan' 'im. という書法である。省略されている音をアポストロフィにしている。もちろん I can't stan' 'im. と言う音声を I can't stand him. と書くのが正書ではあるが 会話や音声中心の書き物(たとえば台詞や歌詞)ではよく使われる。
  3. 映画「賢者の石 / Harry Potter and the Philosopher's Stone Script」
    ハリーの「can't」は イギリス式? それともアメリカ式?

    Hagrid: You're a wizard, Harry.
    Harry: I'm a what?
    Hagrid: A wizard.
       A good one,
       I'd wager, once you're trained up.
    Harry: No, you've made a mistake.
       I mean... I can't be a wizard.
    ハリーのところに 得体の知れない大男がやってきて 誕生日のケーキを差し出す。「何で?」と 戸惑うハリーに さらに 不思議なことを言い始めた。「お前は 魔法使いだ・・・」

    Harry: All students must be equipped with...
       one standard size two pewter cauldron
       and may bring if they desire either
       an owl, a cat or a toad.
       Can we find all this in London?
    Hagrid: If you know where to go.
    大男に連れられて魔法学校の学用品を買い求めに ロンドンにやってきたハリーは、買い物リストを見て「こんなの 売ってるの・・・?」

    Man: Welcome back, Mr. Potter, welcome back.
    Witch: Doris Crockford, Mr. Potter.
       I can't believe I'm meeting you at last.
    Quirrell: Harry P...potter.
       C...can't tell you how pleased I am
       to meet you.
    「ハリーが来た」と聞くと 薄暗いパブにいた胡散臭そうな男たちが 「信じられない」「こんなうれしことはない」などと声を掛けてきた。
    日本語でも方言があるように、英語にも地域や場面によって音声には違いがある。映画「ハリーポッター」では「名犬ラッシ-」のようにイギリス式の発音になっている。それが むしろ 古めかしくて ちょっとオドロオドロシイ魔法の世界へ 誘ってくれる。

    ディズニー映画(アニメ)「ノートルダムの鐘 / The Hunchback of Notre Dame」より

    Frollo: Quasimodo, can't you understand?
       When your heartless mother abandoned you
       as a child,
       anyone else would have drowned you.
       And this my thanks for taking you in
       and raising you as my son?
    悪意と下心あるフロロが、みなし子のカジモドに、ウソの話で恩を着せようとしている。
    大聖堂の副司教であるフロロは、ディスニーアニメに登場する典型的な 悪役で、ことばに イギリス訛りを持たせて、腹黒さをかもし出している。

    日本語でも昔話をするときに「むかーしの ことじゃったぁ」と表現を変えて タイムスリップさせるのと似ている効果を期待しているようだ。
  4. 聞いてもらいたくてしゃべるのだから 相手が聞き取りやすいように発音するのが普通。ところが 逆に ペラペラとまくし立てる場合がある。それが この2つのシーンだ。
    video 1愛犬のトトに意地悪をされたと言って エムおばさんに助けを求めて訴えている場面。
    video 2愛し合ってると思ってたのに 友達のメラニーと婚約したと知り スカーレットがアシュリーに怒りをぶつけている場面。
    ヒトの音声認知には 平均2秒の制約がある。だからたいていのしゃべりは2秒前後で息継ぎ間合い(ポーズ)が入る。紹介のシーンの場合 6秒程度のしゃべりで しかも1秒間に5~6単語(普通は3単語ほど)の早口だ。つまり認知の限界を超えていて 理解が追いつかない。こうしたしゃべり方をする時の話し手が望んでいることは カッカしている感情を受け止めて欲しいと言うことのようだ。
    検索のヒント: 作品/配役別セリフ集 を開いて セリフの一覧表から 枠内にたくさん文字が入っているものを選んで聞いてみるとよい。傾向的には主役 それも女性を選ぶと 早口のものが見つかりやすい。
  5. 早口でまくし立てるしゃべり方と対照的なのが 噛んで含めるような ゆったりしたしゃべり方である。1語1語をしっかり聞き取れるように発声するのが特徴だ。
    video 1遠方よりはるばる訪ねて来たドロシーたちを驚かせて 言うことを聞かせようと おどろおどろしいしゃべり方をする魔法使いオズ。TTS(Text To Speech)ソフトがスラスラと読み上げるように 同じセリフを語ったら 雰囲気が壊れてしまうことだろう。
    video 2夜の街で助けた女が 実は来訪中の王女だと知り 編集長に記事の売込みをする 新聞記者のジョー。見出しはこうだと もったいぶって披露するジョーを 編集長は 唖然として見つめるばかり。
    video 3世界中で今もなお愛され続ける名曲『Over The Rainbow』。会話ではないが 芸術的にゆったりとしたしゃべり方とも言えるだろう。
  6. 目に錯覚があるように 耳にも聞こえない(聞き取りにくい)音を聴く力がある。雑踏の中でも相手の言葉が聞き取れたりするのも この力だ。英語の話し始めは弱勢(弱い音)で聞き取れないことが多い。
    video 1it が主語になったときは 本当に聞き取りにくいが ネイティブは そこにあるものだと思って聴いているので聞き取ってしまう。
    検索語のヒント>it's
    video 2似た音が繋がっていて しかも 特に重要でないとき ほとんど消えてしまう。
    Calvin Coolidge は この映画「雨に唄えば」の時代の 第30代アメリカ大統領(1923-1929)。Calvin and Coolidge put together と 2人の人間と誤解しているところが味噌。
    検索語のヒント>~n and
    video 3them は とかく 消え入ってしまいがちだ。
    検索語のヒント>~'em
    音声変化の検索例は セリーフの「トップメニューバー/検索/検索例/5 音声変化・短縮(1)(2)」にある。
    音声を聞くということは 音に慣れ親しんで 聞き分ける耳の力をつけることが第一だ。しかし 音は耳で聞くだけでなく 頭でも聞いていると言う現実もある。特にアメリカ英語では速い喋りの中で 音と音がくっついたり変化したり消え入ったりしているので 頭で聴く必要がある。つまり 音のかたまり chunk から文を想起することが大切だ。